歳差運動と核磁気共鳴

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歳差運動についてです。

 スピンが磁場内にあるとき、スピンはちょうど独楽のように自分自身が回転しつつ軸も回転しています。この運動を歳差運動といいます(下図参照)。歳差運動がMR画像を得るための信号源です。回転運動の周波数はラーモア(Larmor)周波数といい、周波数をf[Hz]で表記すると、(1-3)式で示されます。
f=γB0/2π
もしくは.角周波数ω[radian] (=2πf)で表記すると、
ω=γB0
f:周波数、:静磁場強度、γ:磁器回転比、ω:角周波数

です。たとえば、水素原子中のプロトン(1H) では、B0=2.2487T(Tesla:テスラ)でラーモア周波数が100MHzになります。他の原子(23Na、31Pなど)ではラーモア周波数がもっと小さい値となります。(以下の表に示す)式から明らかなように、ラーモア周波数は、静磁場強度に比例して大きくなります。また、同じ静磁場強度の装置であれば、ラーモア周波数は同じです。

核磁気共嗚についてです。

 生体(多数のプロトンを含む)が静磁場(B0、z軸方向とする)中にあるとき、数秒でスピンは熱平衡となります。ここで、RF磁場(B1とよぶ)をz軸と垂直方向(x軸とする)にラーモア周波数で印加します。このとき、スピンの回転周波数とRF磁場の回転周波数が一致しているので、スピンからみた回転磁場は、あたかも静止しているようにみえます。このことから、スピンの振る舞いを実験室座標系からスピンの回転に合わせて回転するスピン座標系に変えてみると、たいへん簡単になります。スピン座系では、B1が印加されると巨視的磁場MはB1の力を受けてy-z平面内を回転します。この回転は、(1-4)式によって説明されます。
dM/dt=γ[M×B]   (1-4)
dM/dtは、磁化Mの時間変化であり、BはB1のべクトル表記です。xはべクトルの外積を表します。巨視的磁化Mが90°回転するだけの強さのRFパルスを90°パルスといいます。RFパルスを印加する前は、巨視的磁化Mは、縦磁化成分だけをもちます(M=Mz)。ここに、90°パルスを印加すると、縦磁化Mzはゼロとなり、同じ大きさの横磁化Mxyが生じます(M=Mxy)。B1が第えた後、巨視的磁化はふたたびz軸を中心に歳差運動を始めます※。そのあと、縦緩和時間T1で縦磁化Mzは回復します。

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 B1の大きさは、10μT程度であり、静磁場B0の大きさ(0.2T~3T)と比べて非常に小さいです。1ガウス(Gauss,1G=10-4T)の磁場強度の時、90°を回転する時間は約1/16msと短いです。

 MRIでは、歳差運動に伴う横磁化Mxy(回転磁場)を核磁気共鳴信号として検出します。

※B1の印加により、巨視的磁化が90°倒れたとき、最初の平衡状態のスビン分布は、B1によって高いエネルギー状態と低いエネルギーの比は変化し非熱平衡状態です。そこで、巨視的磁化は、縦緩和時間T1で、平衡状態に向けて緩和していくことになります。

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縦磁化と緩和

縦磁化と緩和についてです。

 スピンが高いエネルギー状態から低いエネルギー状態へ移行するときにエネルギーを放出します。また、低い状態から高い状態に変化するときには、スピンは周囲からエネルギーを吸収します。放出/吸収のエネルギーの大きさは、状態間のエネルギー差に一致します。エネルギーの放出は、スピンと周囲の粒子との衝突や相互作用によります。エネルギーの吸収は高周波(radiofrequency・RF)磁場で行われます。

 静磁場中のスピンは、高いエネルギー状態と低いエネルギー状態の比率が一定で(ボルツマン分市という法則に従い厳密に計算できる)、安定した状態になります。この状態を熱平衡状態といいます。

 熱平衡状態において、低エネルギー状態のスピンと高エネルギー状態のスピンは、わずかに低エネルギー状態のほうが多いです。両状態のスピンの占める割合の差により、巨視的化は静磁場方向を向きます。この磁化べクトル成分を縦化とよびます。

 熱平衡状態のスピンにRF磁場を照射すると、低いエネルギー状態のスピンは高いエネルギー状態のスピンに変化します。このように低い状態と高い状態の比が熱平街状態から変化した状態は、非熱平衡状態といいます。

 非平衡状態の縦磁化Mzが、平衡状態に戻る過程は、(1-1)式の徴分方程式で示されます。
dMz/dt=(M0-Mz)/T1 (1-1)
これを解くと.
Mz =M0{1-exp(-t/T1)} (1-2)
となります。ここで、T1 は巨視的置化が減少する(これを緩和するという)時定数(縦緩和時間とよぶ)。
M0は巨視的磁化の熱平衡値です。この式から、巨視的磁化Mzは、時刻T1で、63%だけ平衡状態に近づくことになります。(以下の図参照)縦緩和は、高い工ネルギー状態のスピンが、そのエネルギーを周囲の粒子との衝突で失う時間あたりの頻度です。縦緩和時間は、スピン-格子緩和時間あるいは熱緩和時間ともよびます。T1は、プロトンの易動度や温度に大きく依存します。生体の縦緩和時間は、0.1~4.Os程度です※。

※自由水のT1は40s程度、結合水、構造水のT1はおよそ0.1~0.8s、また、生体ではないが氷(固体)のT1は決勝状態のため非常に長い。

原子とプロトン

 NMRの原理についてです。

 まずは原子とプロトンについてです。

 NMR現象は、量子力学と古典力学の双方の側面をもちます。しかし、多くの現象は古典力学的な説明で理解できます。したがって、できるだけ量子力学的な説明をせずに直観的でわかりやすい説明を心がけます。

 物質を構成する原子は電子と原子核からなり、正負の電荷は等しく総和はゼロで中性です。原子核は陽子(プロトン)と中性子から構成されます。もっとも小さい原子は水素原子(1H)で、陽子1つからなる原子核と電子1つが対になってできています。プロトンは電子に比べ非常に重いです(質量比は1836)。プロトンは、電荷と磁気モーメントをもちます。ここで、磁気モーメントは、小さな磁石にたとえることができます。磁気モーメントは、プロトンの(量子学的な)回転運動・スピン(spin)によって生じます。

 静磁場中でスピンは、高エネルギー状態と低エネルギー状態に分かれます。低エネルギー状態は安定で高エネルギー状態は不安定です。静磁場がゼロのときには、スピンは、原子ことにばらばらな方向を向いています。そのため、原子を集合としてみると、スピンの総相(これを巨視的磁化という)はゼロになります。一方、静磁場があるとき、スピンは静磁場の方向に整列します。この結果、巨視的磯化はゼロでない値をもっことになります。以上より、静磁場中の巨視的化をベクトル量としてとらえることができ、一般的には記号Mで表されます。

模式図を以下に示します。

MRIの物理的特徴

 MRI装置台数は、1994年にはすでに国内に2208台稼働していましたが、2006年時点で、約5000台に増え、現在ではさらに増え、たいへん身近な存在になっています。MRIの撮像対象は、頭部・脊椎などの中枢神経系、四肢、心臟、血管、腹部 (腎臓、肝臓、胆管、膵管など)など多岐にわたります。また、脳手術中に残存腫瘍をモニタする術中MRIや、インターベンショナルMRI、脳機能を画像化するfMRI(functional MRI)、脳の神経線維を画像化するトラクトグラフィ(tractography) など、新しい技術開発も進んでおり、今後もMRIの適用範囲は広がる傾向にあります。

 MRIを可能にする物理的な原理は、以下の5点に集約されます。

① 電場と磁場には基本的な関連があります。電荷が空間を移動すると磁場を発生します。そして場が時間的に変動すると電場を生じます。この関係は逆もまた成り立ちます(可逆的である)。
②多くの原子において、原子核はあたかも小さい磁石としてるふるまいます(磁気双極子モーメントをもちます)。
③静磁場のS極(N極)と静磁場中の磁石のS極(N極)には斥力が働き、静磁場のS極 (N極)と静磁場中の磁石のN極(S極)の間には引力が発生します。このことから、磁石のS極が磁場のN極に、磁石のN極が磁場のS極に向きをそろえようとする力が働きます。このように、磁場中の磁石が整列します(低いエネルギー状態)。また整列していなし状態もあります(高いエネルギー状態)※
④プロトンは、磁気双極子モーメントに加え、角モーメントというものをもちます。角モーメントは回転している物質を同じ状態で回し続けるように働きます。その結果、プロトンはこまのように回転しながら軸が揺れる動きをします。これを歳差運動といいます。
⑤歳差運動は、角モーメントとそれを変えようとするカ(磁場)に比例します。比例係数を磁気回転比といいます。

 これらの原理の組み合わせで、MRIでは、プロトンの密度、緩和時間、血流情報などの信号を扱うことができます。また、得られた情報をさらに詳細に処理することで、これまでにないさまざまな種類の画像をつくることができます。たとえば脳の診断で複数の撮像方法で同一部位を撮像し各画像で病変部がどのようなコントラストを呈するかを見て、総合的な画像診断をします。

 このことから、MRI装置は非常に高い診断性能と潜在ポテンシャルをもっています。

※プロトンのような原子核では、エネルギー状態は離散的に存在することが知られています(NMRで扱うスピンの量子レベルは、プロトンの場合、高いエネルギー状態の反平衡状態と低いエネルギー状態の平衡状態の2種類が存在します)エネルギー状態は量子力学を使うことによって厳密に計算できます。

以下にMRI数の遷移を示します。

MRIの特徴

MRIについてです。

 MRI(magnetic resonance imaging:核磁気共鳴イメージング) 装置は、核磁気共鳴 (nuclear magnetic resonance・NMR)現象を利用した画像診断置です。1980年代中ころから臨床イメージングに急速に普及しました。X線を主体にした手法と比べると、安全性に優れ、濃度分解能に優れるほか、さまざまな生体機能を画像化できます。その理由は、MRIが生体をおもに構成する水素原子核(プロトン)の物理化学的な状況を計測するからです。水素原子は、+の電荷をもつ重い陽子(プロトン)と一の電荷をもつ軽い電子から成り立っています。

 NMRの原理は、1946年にプロッホ(Bloch)とバーセル(Purcell)がそれぞれ独立に発見し両者はノーベル賞を受賞しました。NMR現象を利用した工業製品には、物理化学分析用のNMR装置があり、化学的こ分析に利用されています。生体への利用は、1971年にタマディアン (Damadian) が腫瘍の緩和時間を測定し癌診断の可能性を報当したのが最初です。NMRを利用した撮像、すなわちMRIは1973年に成功しました。

 MRIの発明に対して、ローターバー(P.C.Lauterbur)とマンスフィールド(P Mansfield) が、2003年にノーベル賞を受賞しました。MRIの発明の初期には、MRIの画像化アルコリズムとして、X線CTの画像再構成法で使われる投影再構成法が用いられていましたが(1973年ころ)、その後、現在主流になっているフーリエ変換イメージング法が提案されました(1974年)。最初は、ヒトの頭部だけでの撮像でしたが、1979年には、全身用のMRI装置が開発されました。

 MRI装置の特徴です。利点は、軟部組織の分解能が良い、任意の断面で撮像ができる。撮像の自由度が高く診断目的によって最適な画像コントラストで撮像できる、侵襲性が低い、など多い.です。一方、欠点としては、撮像時間が比較的長い、動きによるアーチファクトが生じやすい、金属が体内にある場合画質が劣化する、高磁場下で撮像するため、撮影室に金属性のもの (磁性材)をもち込めない、高周波ノイズを発生する機器を撮影室にもち込むと画像が乱れる、などがあります。

MRIの特徴の詳細を以下に示します。

利点
①軟部組織のコントラスト分解能に優れている
②軸横断、冠状断、矢状断像像の他に任意の斜断像が容易に得られる
③撮影の自由度が高い(パルスシーケンスの選択ができ、病変に対する検出能が高い)
④無侵襲で安全性が高い
⑤血流情報が得られる
⑥骨や空気によるアーチファクトがない
⑦化学シフト情報が得られる
⑧イメージンクとスペクトル計測が両立できる(高磁場装置)
⑨プロトン以外のイメージンクが可能(高磁場装置)
⑩脳機能撮像による脳局所活性化部位の同定がでさる

欠点
①撮影時間が長い(30分程度)
②動きのアーチファクトが生じやすい
③石灰化巣に関する情報が得られない
④周辺環境への漏洩磁場の影響がある
⑤装置の価格および運転費用が高い
⑥撮像対象に制限がある
例:重症患者やぺースメーカ保持者の撮影に制限

MRIの持ち込み禁止なものについて以下に示します。
どこの施設でも同様なものが検査室前に貼られていると思います。

 

MRIの出現

MRIの出現についてです。

 CTの出現後数年にして、MRI(magnetic resonance imaging:磁気共明映像法)が開発されました。1980年、MRIが北米放射線学会(RSNA)の機器展示に初めて登場した当時は、NMR(nuclear magnetic resonance imaging:核磁気共鳴映像法) と呼称されていました。緩和時間T1、T2を測定できるようになり、初期には脳腫瘍と緩和時間の関連が盛んに研究されました。その後、MRIは脳脊髄神経系、関節、靭帯など整形外科領域、骨盤内蔵器など婦人科領域の診断へと広がってきました。

 MRIは一種の分子イメージングであり、生体の軟部組織や血管の描出に優れています。実用機機の磁場強度も0.5Tから始まり、いまや1.5Tがふつうになり、さらに高い磁場(3Tなど)も臨床で使われています。また、検査時間が長いという欠点はありますが、放射線を使わないので被ばくがないという利点もあります。
 
 MRIがもっとも強いインバクトを与えたのは、脳神経系です。わが国の成人3大死因(悪性新生物、心疾患、脳血管疾患)の一つである脳血管疾患の早期発見、治療効果判定に果たした役割は大きいです。それまでのCTは脳出血や脳梗塞の発症後の存在診断に役立ちましたが、脳血管の微細な変化をみることはできませんでした。MRIのもつ血管描出力はMRA (magnetic resonance angiography:MR血管撮影法)として脳血管領域の異常発見に使用されています。とくに脳出血の原因となる脳動脈瘤の存在診断には大きな力があります。脳MRIでみられる脳内の小梗塞、脳室の拡大からみた脳萎縮の診断とあいまって、今日、脳ドック検査として普及しています。脳萎縮による認知症を恐れる人たちは数多く、MRI のような高価な医療機器が、人々の健康チェックに利用されているのは、世界にみられないわが国の特徴で、健康志向の強い国民性にもよります。

 MRIのもつ軟部組織の優れた描出性能は、もっとスポーツ医学などに利用されるべきです。整形外科の病院で関節や椎体など詳細を見たいときに使われています。私も以前整形外科の病院で働いていましたが、肩関節、肘関節、膝関節、腰椎など多くの撮影をしていました。MRIはトンネルタイプのものが多く、閉所恐怖症の患者さんなどは困難な場合もあります。その点でガントリの広い装置や、オープンタイプの装置が普及したことは、これからMRIの応用範囲の広がることが期待されています。

以下に臨床で用いられる、トンネルタイプとオープンタイプのMRIを示します。