生殖腺、骨・軟部組織の放射線有害事象

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・生殖腺
特徴とリスク因子:男性不妊からの回復は線量に依存しており、被曝量が多いと回復に長時間を要します。幹細胞である精原細胞の細胞周期が長く、多くの幹細胞が放射線抵抗性の細胞周期相にいるために、1回に大きな線最の照射を受けるよりも、分割照射や低線量率持続照射の方が幹細胞の障害は大きいです。精子は成熟した細胞でありDNA量も半分であるために放射線抵抗性であり、42日の命をもっていることから、少なくとも被曝から6週間は不妊とはなりません。男性ホルモンを産生している間質細胞(Leydig細胞)は放射線抵抗性で、精巣に永久不妊を起こす線量が照射されても、ホルモンレベルは正常に保たれ、二次性徴に変化が起こることはないです。Sertoli細胞も抵抗性です。
卵巣への照射の影響は精巣への影響とは明らかに異なります。幼若な卵胞中の卵細胞はリンパ球と同様に放射線感受性が高いです。また、精原細胞のように分割効果はないです。成長期の女性の卵胞にある卵原細胞は放射線感受性が高くアポトーシスで死にます。女性ホルモンの産生は卵胞の成熟と関連しているため、精巣照射となりホルモン値はただちに低下します。
急性期有害事象:なし。
晩期有害事象:月経の一時停止、不妊、性ホルモン値の低下、去勢。

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・骨・軟部組織
特徴とリスク因子:幼弱な骨ほど低線量で骨端や軟骨に変化を起こしやすいです。皮質骨・骨梁ともに影響を受けます。成人骨では放射線照射によって骨芽細胞と破骨細胞の機能のバランスが破壊されて晩期有害事象が起こります。骨障害の主役は血管系の障害で、骨組織に囲まれているため同一線量でも吸収線量が軟部組織内に比べて多く、また側副路も形成されにくいです。下顎骨壊死は組織内照射や抗がん薬が併用されると類度が有意に増加します。関節への照射は後期障害が臨床的に間題となります。病態は間接腔の狭小化、軟骨の萎縮、線維化、骨梁の骨粗鬆、結合織の硝子化などを起こします。
細胞分裂を起こさない骨格筋組織は、部分的な血管障害が生じても、障害を受けていない他の血管から栄養されるので壊死に陥ることはないです。
急性期有害事象:浮腫、骨壞死、成長停止。
晩期有害事象:成長障害、側彎、運動障害、硬結(線維化)、環障害(リンパ浮腫)、四肢の短縮、関節腫脹、関節の狭小化、関節拘縮、骨壊死。

・発がん
特徹とリスク因子:白血病は照射後3カ月後位からでも発生しますが、固形癌は5~数十年と長い潜伏期を経て現れます。放射線治療による二次がん発生のリスクは5年生存例の約1%です。放射線治療では放射線誘発がんのリスクがあることは否定できませんが、治療によって得られる利益に比較すれば、そのリスクはきわめて小さいといえます。近年の高エネルギー治療では中性子の発生も問題になります。とりわけIMRTなどMU値の高くなるものは注意を要します。

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消化管、肝臓、腎臓、膀胱、脳・脊髄の放射線有害事象

・消化管
特徴とリスク因子:照射野の広さ、1回線量との関連が深いです。消化管の中で小腸の感受性が最も高く、次いで結腸、胃、直腸です。食道が最も放射線感受性が低いです。腹部ならびに骨盤部の手術や炎症の既往があり、腸管の癒着がある患者では有害事象の類度ならびに重症度が増加します。食道は漿膜を欠き、最外層が外膜となっているため穿孔を起こしやすいです。抗がん薬や分子標的薬との併用や腹部・骨盤部手術既往などがリスク因子となります。
急性期有害事象:悪心、嘔吐、食欲不振、下痢、腹痛、易疲労感、嚥下痛、嚥下困難、食道炎、穿孔、潰瘍。
晩期有害事象:排便異常、出血、疼痛、潰瘍、穿孔、線維性狭窄、腸閉塞、直腸膀胱腟瘻。

・肝臟
特徴とリスク因子:肝細胞の放射線感受性は比較的高いです。肝は並列臓器であるため、肝門部が含まれない部分照射では大きな線量にも耐え得ます。急性反応は線量依存性です。肝硬変(Child・Pugh Grade B 以上)で有害事象のリスクが増加します。動注の併用やウイルスの活性化にも注意が必要です。
急性期有害事象:肝酵素の上昇、浮腫、うっ血、腹水貯留。
晩期有害事象:中心静脈、亜小葉静脈の拡張、肥厚ならびに類洞のうっ血、出血、線維化。容積の縮小。

・腎職
特徴とリスク因子:放射線感受性の高い臟器です。急性反応では糸球体瀘過率が低下することがありますが、有害事象は緩徐に進行して何年も無症状のことがあります。骨髄移植の際の全身照射後や胃リンパ腫照射の際に放射線腎症をきたすことがあります。
急性期有害事象:浮腫、腎炎。
晩期有害事象:腎硬化症(縮賢)、悪性高血圧。

・膀胱
特徴とリスク因子:膀肬の放射線感受性は直腸などに比較して低く、発症も2年以降に出現するとが多く、数年して発症することもしくないです。
急性期有害事象:頻尿、残尿感、血尿、膀胱炎。
晩期有害事象:頻尿、出血性膀胱炎、尿閉、萎縮膀胱

・脳・脊髄
特徴とリスク因子:全脳照射では照射後数時間で、脳浮腫が出現します。放射線という物理刺激に対する血管透過性亢進による生理学的反応です。亜急性の有害傷害として、脳照射4~週間後に嘔気や微熱を伴った意識混濁を認めることがあり、Somnolet症候群と呼ばれています。脳には細胞分製をしない神経細胞と細胞分裂をする神経膠細胞があり、放射線による細胞死は神経膠に起こり、脱髄に至ります。脳障害の主体は後期反応で照射後6か月に一過性の脱髄やさらに重篤な白質脳症が起こります。血管のフィブリノイド変性・閉塞による脳壊死は6カ月ぐらいから出現することもありますが、2,3年後に発症することが多いです。周囲に圧迫効果を呈することもあり、再発との鑑別が困難なこともあります。
脊髄も脳と同様に放射線感受性が低いので、急性の有害事象が臨床上問題となることはないですが、照射後数カ月後に一過性の脱髄による症状(Lhermitte徴候)を呈することがあります。メトトレキサート、シスプラチン、シタラピンなどの抗がん薬で有害事象は増強します。
急性期有害事象:脳浮腫、脳圧亢進症(頭痛、嘔気、嘔吐、徐脈)、傾眠。
亜急性期有害事象:Somnolent症候群、一過性放射線脊髄症(Lhermitte徴候)。
晩期有害事象:壊死、白脳症、痴呆、放射線脊髄症(Brown-Sequard症候群)。

実際の臨床での放射線治療ではこれらの障害をなるべく起こさないようなビーム角などの計画方針、DVHによる線量評価などが行われています。

眼球、肺、心臓の放射線有害事象

・眼球
特徴とリスク因子:水晶体上皮は放射線感受性がきわめて高く早期にアポトーシスが誘導されます。白内障発症までの潜伏期は6カ月から35年(平均2~年)ですが、線量が大きいほど潜伏期は短くなります。網膜細胞では色覚には関与しない桿体細胞の方が放射線感受性は高いです。
急性期有害事象:眼臉炎、結膜炎、角膜炎、虹彩毛様体炎、流涙、涙分泌減少、眼球乾燥。
晩期有害事象:網膜症、視神経萎縮、白内障、角膜潰瘍、涙腺萎縮。

・肺
特徴とリスク因子:放射線肺臓炎はⅡ型肺胞上皮細胞の損傷によって発症する間質性肺炎で、血管透過性亢進による浸出性変化を主体とする病変です。古典的には照射野内に限局しますが、照射野外にも及ぶものもあり、バイスタンダー効果によると考えられる肺の有害事象は線量、分割法、照射体積等に依存するだけでなく、併用される薬剤、喫煙歴、照射前の肺機能、間質性肺炎や膠原病の有無等に影響されます。肺線維症は障害された肺組織に線維穿細胞が動員され、筋線維穿細胞に分化してコラーゲンや細胞外基質蛋白を過剰生産して完成します。
Grade2以上の放射線肺臓炎の発症リスクを低減させるためには、20Gy以上照射される正常肺の体積(V20)が肺全体の体積の40%を超えないようにすることが重要です。また、抗がん薬を併用した場合には35%以下に抑えることが必要といわれています。
急性期有害事象:放射線肺臟炎(咳嗽、発熱、呼吸困難)。
晩期有害事象:肺線維症、気管狭窄。

・心臓
特徴とリスク因子:心筋細胞は非分裂系であり放射線感受性は低いため、心臓の有害事象は照射中に起こることは稀で、多くは後期障害事象として出現します。心外膜炎は照射後数カ月して出現し心嚢液貯留をきたします。心筋症はアドリアマイシンによって増強されることが知られている乳に併用される類度の高いハーセプチンと照射の併用は避けるべきです。照射後に心駆出率にの穴下がみられることがあります。弁膜異常や冠動脈疾患が放射線によって誘発されることがありますが、詳細は不明となっています。
ペースメーカーや埋め込み式細動器が放射線治療によって誤作動することが間題となっています。これらが照射野内に含まれることは避けるべきですが、前立腺癌の骨盤部IMRT(intensity-modulated radiatio therapy)によってもペースメーカーがデフォルトモードになったとの報告もあり、ペースメーカーや理め込み式細動器挿入患者の放射線治療の際には十分に注意を払う必要があります。詳細はガイドラインを参照されると良いと思います。
急性期有害事象:稀
晩期有害事象:心外炎、心嚢液貯留(発熱、胸痛)。心電図異常(STやT波の異常、低電位)。

骨髄、皮膚、粘膜、唾液腺、甲状腺の放射線有害事象

各臓器の放射線有害事象の特徴とリスク因子についてです。急性期有害事象ならびに晩期な害事象を以下に簡単に示します。

・骨髄
特徴とリスク因子:リンパ球はきわめて放射線感受性が高く照射後ただちにアポトーシスが誘導され、照射中に照射野を流れるだけでも間期死を起こします。広い照射体積の治療では放射線単独でも骨制抑制が出現することがあります。抗がん薬の併用が最大のリスク因子です。
急性期有害事象:形成不全、汎血球減少。
晩期有害事象:脂肪髄、骨髄線維症、白血病。

・皮膚
特徴とリスク因子:放射線急性反応は皮膚の表皮と真皮の反応です。皮脂腺は高感受性のために、皮膚に紅斑を生じさせない少ない線最でも皮膚の乾燥感が生じます。摩擦や紫外線などの物理的刺激、抗がん薬などの化学的刺激、分子標的薬(セツキシマプ)の併用等の生物学的刺激がリスク因子となります。
急性期有害事象:発赤、紅斑、乾性皮膚炎、湿性皮膚炎、脱毛。
晩期有書事象:色素沈着、色素脱出、毛細血管拡張、皮膚萎縮、後期難治性潰瘍、瘢痕、永久脱毛、皮膚の乾燥感。

・粘膜
特徴とリスク因子:粘膜細胞の寿命は皮膚上皮よりも短く、放射線に対して急速な反応を示します。歯や歯冠修復物の鋭縁削除、抜歯、補綴物の撤去、保存可能な歯牙の治療等の口腔内処置が治療前に必要です。内外眼角部、口唇、ロ角、外尿道ロ、肛門等の皮膚粘膜移行部は感受性が高いです。会話や温熱による物理的刺激、飲酒・喫煙・抗がん薬等の化学的刺激が反応を増悪させます。
急性期有害事象:発赤、充血、紅斑、浮腫、びらん、出血、白苔、潰瘍、口腔乾燥感、味覚障害、耳閉感。
晩期有害事象:線維化、瘢痕、潰瘍、口内乾燥症、味覚異常、慢性中耳炎、難聴。

・唾液腺
特徴とリスク因子:機能低下は照射開始早期から出現します。症状の程度や持続時間は線量に依存し、自覚症状が改善するまでに長期間を要します。唾液中のアミラーゼは唾液腺機能をよく反映するため、唾液腺機能低のよい指標となります。耳下腺に多い漿液腺の方が放射線に高感受性であるために、唾液量の減少以上に患者はロ内のねばねば感を訴えます。
急性期有害事象:耳下腺腫脹、唾液過多、アミラーゼ上昇、粘調唾液、口腔乾燥感。
晩期有害事象:ロ内乾燥症、嚥下障害、味覚障害、睡眠障害、ロ内感染症、齲歯。

・甲状腺
特徹とリスク因子:甲状腺機能低下の臨床症状は稀ならず観察されます。頭頚部腫瘍や食道癌などで頸部照射された患者では、TSH、T3、T4などの血液データの異常と、さまざまな甲状腺機能低下症に注意が必要です。
急性期有害事象:なし。
晩期有害事象:TSHの上昇、T3の低下、心嚢液貯留、粘液水腫。

正常組織障害発生確率

耐容線量と線量体積ヒストグラムについてです。

 直列臓器の有害事象はその一部分でも許容できないため、有害事象は耐容線量で決定されます。耐容線量は臨床的には最小耐容線量 TD5/5と最大耐容線量TD50/5が用いられます。耐容線量の値は一定ではなく、1回線量、分割回数、線量率、宿主因子、化学療法の併用の有無等によって変化します。
 一方、並列臓器では他の部分が機能を補償できる範囲であれば部分的な不可逆的な有害事象であっても許容できるので、線量体積関係(DVH)を用いて障害の程度を判定します。DVHは、ターゲットやその他の重要なリスク臓器の解剖学的位置関係を除外して、単純に治療計画CT上のボクセルごとの吸収線量を各臓器別に線量と体積との関係で示したものです。DVHは標的体積やリスク臟器の線量と体積の関係が容易に把握できるので、複数の治療計画を比較するには臨床的有用性が高いです。DVHでリスク臓器への線量が高すぎないか、ターゲットにしっかり線量が入っているかなどの確認をすることができます。

正常組織障害発生確率(normal tissue complication probability : NTCP)モデルについてです。

 DVHは線量と体積という物理学的な概念であり、病巣内の線量均等性や周囲正常組織の体積・線量関係を知ることができるので、現在はDVHを用いて治療計画の良否を判断するのが一般的です。しかし、投与線量の上限を規定しているのは周囲正常組織の晩期反応と考えられています。そこで、治療計画の立案上もっと重要なことは、投与された線量によって周囲正常組織の障害がどの程度発生するかを示しているNTCPという生物学的な概念を導入する必要があります。
 NTCPは古典的なS字状の線量反応曲線から導き出された標準的な線量効果を表す方法であり、そのなかに生物学的パラメータとしてTD50/5線量とS字状カープの傾きm (細胞の放射線感受性の均一度)と体積効果n (臓器のもつ直列・並列の性質の割合)を採用しています。そしてこの生物学的反応と線量と照射体積とが3次元構造をもっことが知られています。しかし、線量が組織に対して不均一に存在するので、発症確率は一義的に決まりません。そのためDVHを体積あるいは線量に代表する値に変換しています。(有効体積法・Equivalent Uniform Dose)。

以下にRayStation(HITACHI製)のDVHの例を示します。

組織の放射線感受性

組織の放射線感受性についてです。

 組織を構成する細胞は組織固有の実質細胞と間を理める血管結合織により成り立っています(実質と間質)。まず実質細胞をみると、組織の放射線に対する本質的な感受性は3つに分類できます。最も感受性の高い組織は、常に細胞分裂を繰り返し、死滅して脱落する細胞と同じ数の細胞が常に新しく産出されている組織であり、このようにして生体の恒常性と統一性を担保しています。恒常的細胞再生系の細胞といい、皮膚、腸上皮、骨髄、精巣、リンパ組織等です。
 放射線に対する反応は、皮膚では基底細胞、小腸では腺窩細胞、骨髄では骨髄芽球、精巣では精原細胞といった、組織を構成する母細胞の細胞死から始まります(実質細胞障害説)。次いで放射線感受性が高いのは通常は分裂増殖していませんが、何らかの障害を受けると分裂を再開して再生を果たす組織です。緊急的細胞再生系といい、肝臟、腎上皮、唾液腺、甲状腺上皮等です。最も放射線感受性が低いのはすでに分裂を停止し、障害を受けても分裂増殖しない組織であり、非細胞再生系と呼ばれ、筋肉、脳・脊髄等です。
 次に間質をみると組織を構成する組織には血管・結合織がありますが、血管・結合織の放射線感受性は緊急的細胞再生系や非細胞再生系の組織よりも高いです。
 そこで、緊急的細胞再生系や非細胞再生系組織では実質細胞が放射線によって直接障害を受けるよりも少ない線量で血管・結合織が障害されることで、二次的に障害されます。例えば、神経細胞自体の放射線感受性は極めて低く、100Gy近くの線量を1回に受けないと死滅することはないです。しかし、放射線壊死や放射線脊髄症発症の耐容線量は1日1回2Gy、週5回の単純分割照射法で46~50Gyとされています。これは先に述べたように、実質細胞の直接的な障害ではなく、血管・結合織の障害に続発する有害事象であることに起因しています。

直列臓器と並列臓器です。

 放射線による有害事象は臓器の特性に大きく影響を受けます。臓器はニューロン、ネフロン、肺・肺小葉といった機能小単位 functional subunitの集合体です。臓器には脊髄や腸管のように、その一部が不可逆的な障害を受けると臓器としての機能がなくなってしまうものと、肺や肝臓や腎臓のようにその一部が不可逆的な障害を受けても、残りの部分が機能を補うことでその臓器の機能を維持できるものとがあります。前者の臟器は、機能小単位が直接に配列しているため直列臓器(serial organ)の機能小単位でも障害を受けると機能しなくなりますが、後者は並列に配列しているため並列臓器(parallel organ)と呼ばれ一定程度の機能小単位の障害では代償が起こり臓器としての機能不全には至りません。肺や肝臓は並列臓器ですが、肺門部や肝門部が照射される場合には直列臓器として考える必要があります。

確定的影響と確率的影響

放射線に対する反応とα/β比についてです。 
 放射線で照射すると、片対数グラフ上で肩のある生残率曲線が得られます。肩は亜致死損傷回復を示しており、このモデルはヒット論標的論の根拠となっています。しかし、生残率曲線をこの理論のみで説明するには、低線量域に無理があることから他のモデルも提唱されています。すなわち、「1ヒット1標的」と「1ヒット多重標的」との2つを組み合わせた二要素モデルがあります。
 もう1つは、過分割照射などの分割法の基礎理論となったLQ (直線・曲線)モデルです。これは細胞の致死障害はDNA2本鎖切断であって、単鎖切断では致死に至らないとしたモデルです。1本の放射線で2本鎖切断が生じる場合(飛跡内事象)と、2本の放射線によってごく近傍に独立した2つの単鎖切断が生じて2本鎖切断になる場合(飛跡間事象)とがあり、前者の事象の発生確率は線量Dに直線的に比例(αD)し、後者は線量の2乗に曲線的に比例(βD2)します。
 生存率Sはe-1(αD+βD2)で表されます。正常組織の急性反応と晩期反応をこのモデルで解析すると、得られた曲線の2つのパラメータα、βの比(α/β比)が前者では8~12Gyと大きいですが、後者では2~4.5と小さいです。晩期反応では分割照射の間に再増殖や再分布の影響を受けないので、亜致死障害が十分に回復する照射間隔をとれば、1回線量と組織障害との間に直線関係が成り立ちます。
 早期反応組織では治療期間が延長すると治療期間中に細胞の再増殖が起こるので有害事象は軽減します。しかし、晩期反応組織では再増殖がみられないために治療期間の影響をほとんど受けません。すなわち、晩期有害事象の発症は早期有害事象に比べて1回線量に強く影響を受けます。

確定的影響と確率的影響です。
 放射線の標的は幹細胞です。この幹細胞死をエンドボイントとしてみた場合、体細胞が放射線によって障害を受けると、その細胞が関与する組織や臓器に異常が出現します。例えば、骨髄幹細胞が重な障害を受けると骨髄死を起こし、皮膚幹細胞が障害を受けて死滅すれば、皮膚に発赤、紅斑、びらん、潰瘍が生じます。しかし、回復が可能な障害や、死滅する細胞が少ない障害であれば間題とならないため、ある線量を超えて被曝を受けない限り症状は出現しません。この線量を「しきい値」と呼びます。
 しきい値より少ない線量であれば、障害は完全に修復されて蓄積することはありません。一方、しきい値を超えると線量の増加とともに障害が発生し、重篤度を増します。放射線の細胞への影響はほとんどがこうしたもので、確定的影響と呼ばれています。すなわち、しきい線量とは、組織の回復を不可能にするほど幹細胞を減少させる線量ということになります。確定的影響では、S字カーブの線量効果関係があります。
 ところが、遺伝的影響と発がんの2つだけは確率的影響といい、しきい値が存在しないために放射線を浴びただけ影響が増加します。言い換えれば、「回復がなく、受けた放射線量に比例して障害の発生確率が増えるような影響」です(線量依存性がある)。これは被曝後に. 比較的速やかに生じ、因果関係も明確である確定的影響とは異なります(放射線は非特異的)。遺伝的影響は線量の大小と重篤度には関係がありません。確定的影響はある線量以上を浴びなければ予防できますが、確率的影響はを予防する手立てがありません。

 100mSvの以下の被ばく量で確率的影響が人に生じるという科学的事実はないですが、少量の被ばくがもたらす影響についてはさまざまな考え方があります。最も代表的な考え方が、「直線しきい値なし仮説」(linear non-threshold model:LNT仮説)です。100mSv以上で得られているリスクと線量との関係直線を低い線量の方に外挿していくとゼロに一致するというものです。一方、低線量放射線照射はDNA修復機能、免疫応答、抗腫瘍機能ならびに解毒機能を活性化するなど、いわゆる適応応答を誘導し、体に有益であるとする考え方 (放射線ホルミシス、しきい値ありモデル) もあります。

正常組織反応

放射線を照射したときの正常組織の反応についてです。

放射線による急性反応と晩期反応です。

急性反応です。
 急性反応は放射線という物理刺激に対する反応であり、分裂の盛んな紀胞再生系の細胞や組織である粘膜、皮膚、骨髄、腸上皮、生殖腺等が標的であり、細胞の増殖死による組織の欠落と再生の経過をたどります。発現時期、重症度、ならびに持続期間は組織を構成する細胞の寿命の長短によって左右されますが、線量反応曲線のS字状カープは線量に依存するため、照射が終了すれは幹細胞が一定程度残存する限り一過性で軽快消失します。
 光子線(X線、γ線)治療では主として間接作用であり、照射によって生成される各種のラジカルが細胞のDNAを損傷して細胞死を誘導します。放射線治療に伴う急性反応は基本的には正常細胞の細胞死という解剖学的変化に起因しています。しかし腹部照射後2、3時間後に出現する嘔気や嘔吐、広い照射野での腹部照射の際の易疲労感、脳照射数時間後に出現する眠気、照射に起因する急性炎症や血管の透過性亢進等は、照射によって誘導されるサイトカインによる生理学的変化によるものと考えられています。
 正常細胞の放射線損傷に対する反応は、①本質的な細胞の放射線感受性、②組織のカイネティックス、③細胞の組織構築等によって異なります。 数10Gyの照射を受けると、照射の数時間後から血管の透過性亢進が起こります。透過性亢進は線量の増加とともに顕著となり、1カ月以上持続します。これらは放射線により惹起された非特異的炎症反応であり、こうした初期透過性亢進が脳浮腫、声門水腫、気管狭窄、尿管狭窄、胆管狭窄、食道狭窄、唾液腺腫脹等の原因となります。

晩期反応です。
 晩期反応は急性反応が軽快し、2~数カ月の潜伏期を経てから出現します。微小血管系や間質第合織の反応と、それに続く不可逆的あるいは進行性の変化で、組織の放射線感受性の差や組織特異性はあまり関与しません。放射線による炎症からの創慯治癒過程であり、残存する幹細胞の減少により組織再生の不全(萎縮)や創傷治癒の遅れ(難治性潰瘍・漏孔) ないし低価値の治癒(線維化・瘢痕化)などが起こります(実質細胞障害説)。
 持続する血管透過性亢進によって線維素の析出、血管内膜の肥厚などを惹起し、放射線肺炎、急性放射線腎症、一過性皮下浮腫等の原因となります。線維化は照射後6カ月で出血管の閉塞は照射後1年以降3年未満に出現し、線維化が瘢痕化・硝子化し、組織の萎縮をきたすのも照射1~数年後に多いです。こうして慢性虚血による組織障害が進行します(血管障害節)。脳壊死、攷射線脊髄症、萎縮膀胱、関節拘縮等はこうした血管・結合織の変化に起因します。このような変化は線量に依存しますが、動脈硬化症、糖尿病、膠原病、腎機能不全等の合併によって異なります。

四次元放射線治療

 女優の樹木希林さんが最近癌により亡くなりました。
 日本アカデミー賞最優秀主演女優賞、日本アカデミー賞最優秀助演女優賞など、数々の賞を受賞した名女優さんで、最近では『万引き家族』が話題となりました。
 がんが発症したのは2004年の時で乳癌だったそうで、その後2008年には腸、副腎、脊髄に転移が発覚し、2013年に全身がんと宣告されていました。
 最終的には約20か所のがんと14年もの間、闘い続け2018年10月15日に死去されました。75歳でした。全身がんであるにも関わらず、最後まで元気に仕事をしている姿は視聴者にも元気を与えてくれたと思います。
 死去された時刻は午前2時45分で、都内の自宅で家族に見守られながら息を引き取ったそうです。
 娘の内田也哉子さんの旦那で俳優の本木雅弘さんは、8月30日の時点で一時期危篤状態だったことを明かしていました。
 その時は無事に危篤を回避し、一安心していたのですが・・・非常に残念です。

その治療に使われていたとされるのが四次元放射線治療です。
治療法について詳しく書いていこうと思います。

 肺および肝臓等の体幹部定位放射線照射においては、 標的(腫瘍)の照射中における位置変動が無視できず、その時間的位置変動を考慮して開発されたのが、四次元放射線治療(4D-RT)法です。4D-RT法では、IMRT、IGRTの機能を持った高精度リニアックが使用され、照射中のリアルタイム性を追求した方法(gated radiotherapy等)および活療期間中の形態変化を考慮した方法(adaptive radiotherapy等)が検討されています。
 臓器の体内の動きに対する誤差を軽減する呼吸同期照射法、腫瘍の動き(時間次元)を考慮した4D-RT法も開発されています。現在、腫瘍の動きを追跡する方法として、体内に挿入した金マーカを多方向からの透視画像を撮像する方法が検討されています。これら動体追跡を応用した動体追跡放射線治療として、腫瘍そのものの動きを追跡して照射する追尾放射線治療、照射のタイミングを腫瘍がある位置にきた瞬間に照射する迫撃放射線治療法が使用されています。
 4D-RTのためには、先端技術を導入した高精度リニアック治療装置が必要となります。現在、EPID像、X線透視像、コーンビームCT像等の画像を利用して、あらゆる4D-RTが可能となるようにX線ビーム、X線照射ヘッド、治療寝台の四次元制御が可能な種々のRTシステムが開発されています。以前、精度向上を目指したセットアップ用のCT装置が治療室内に備え付けられたこともあります。

以下に動体追跡の原理について示します。

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放射線治療品質管理士

放射線治療品質管理士についてです。

 背景です。
 近年、多くの国立・公立・私立病院にて発生した放射線治療における過剰照射や過少照射による医療事故は、がん罹患率の上昇とともに需要の増加しつつある放射線治療の潜在的危険性を改めて認識させるとともに、更なる放射線治療の安全管理体制確立の必要性が問われる結果となりました。
 そのため、放射線治療関連学会および団体(日本放射線腫瘍学会、日本医学放射線学会、日本医学物理学会、日本放射線技術学会、日本放射線技師会)では、医療事故防止対策についての検討を、各学会・団体から任命された委員で構成された「放射線治療の品質管理に関する委員会」に付託することとし、各学会・団体が合同で検討することを確認しあいました。平成16年5月から10月の間に開催された6回の委員会を通して、放射線治療の医療事故の根本的原因の究明と、それに対する対策に関して、委員により鋭意検討が行われました。その結果、「放射線治療における医療事故防止のための安全管理体制の確立に向けての提言」にむけて、今回中間報告をまとめ、また、その具体的な対策の一つとして放射線治療品質管理士制度を創設することとしました。また、この制度を運営していくため、「放射線治療品質管理機構」を新たに創設することとしました。

 放射線治療品質管理士の定義です。
放射線治療品質管理士とは細則の「放射線治療品質管理士の資格」のうち申請資格の条項を満たし、「放射線治療品質管理機構」が定めた講習の履修と更新などの手続きを終え、放射線治療品質管理機構が適格と認定した者です。

申請資格は放射線治療の実務経験2年以上 且つ 治療品質管理*に1年以上従事した者で、
下記のいずれかの資格を持つ者です。
(1) 日本医学物理士認定機構の「医学物理士」
(2) 日本放射線治療専門放射線技師認定機構の「放射線治療専門放射線技師」

放射線治療品質管理士は、放射線治療の品質管理に関わる作業を自ら責任を持って行うとともに、品質管理の観点からの病院全体の業務の監督、連絡・指示の伝達周知、管理部門への改善措置の提案等を行うとともに、それぞれの現場での自主的な品質改善活動(狭い意味での「品質管理」だけではなく、「放射線治療の質」自体の向上を目的とした幅広い活動)を行います。
その業務内容の主なものは
① 放射線治療装置のQAプログラムの立案と実行
② 放射線治療計画装置のQAプログラムの立案と実行
③ 治療計画システムに入力するデータ作成と指示と、すべてのコンピュータ線量測定計画のチェック
④ 実行するべきテスト、許容度とテスト頻度を含む治療計画の施設QAプログラムの決定
⑤ QAプログラムにより判明する矛盾や問題を理解して適切に対応する。
⑥ 治療装置・治療計画装置のQAプログラムの様々な側面で他の放射線治療品質管理に携わる者と協力
⑦ 機器導入に当たって放射線治療装置、計画装置の品質管理面からのプログラムの策定
⑧ 機器故障後の修理終了後の品質管理の立案と実行
などです。

以下に放射線機器品質管理実践マニュアルを示します。社団法人日本放射線技師会 放射線機器管理士部会から出ていて大変勉強になるので読んでみると良いと思います。

外部放射線治療装置―放射線機器品質管理実践マニュアル (放射線機器管理シリーズ)

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